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かるた部のエースのくせに、古文の成績はいつも悪くて。
旧仮名遣いが苦手だと笑っていた陽子。
一人暮らしを始めた彼女に得意料理を聞いたら、カレーだと答えた。私が遊びに行くときはいつもコンビニで食べ物を買って持参したから、陽子の手料理を振る舞ってもらったことなど一度もない。
でも本当は。
陽子は私に、カレーを作ってくれようとしていたのかもしれない。
一緒に作って、一緒に食べて、一緒に片付けをしたかったのかもしれない。
そういう毎日を、叶わないと知りながら、密かに夢見ていたのかもしれない。
せめて言葉が、届かないなら。
想いを伝えることが、できないのなら。
気持ちは胸に秘めたまま、ささやかな夢が叶う日が来ることを、静かに願っていたのかもしれない。
私は仏壇に飾られた陽子の写真を見上げた。
柔らかい、陽だまりのような笑顔。私に何も告げずに、ひっそりとこの世を去った親友。
溢れる涙を止めることができなかった。
胸が苦しくて、痛くて、歯を食いしばって私は泣いた。
あのね、陽子。
知ってたかもしれないけど。
私だって、いっぱい、いっぱい、陽子のことが好きだったんだよーーーー
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