はるつづく

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 同性愛に、今よりずっと理解のない時代だった。2人で幸せになることなど、できないと思った。  好きだからこそ、大切に思うからこそ、陽子には、結婚して子どもを産んで、そういう当たり前で尊い幸せをつかんでほしかった。  私はそれから夫に恋をして、結果的には自分だけが彼女の手を離して幸せになってしまった。 「陽子の結婚式には、私に友人代表のスピーチさせてよね」  私はそう言ったけれど、そんな日は結局、こなかった。  ごめんね。  ありがとうね。  本当は私も大好きだったんだよ。  そんな気持ちを、いつか陽子に伝えたい。  返歌にのせて。  陽子が私にくれた歌のように、飾らない言葉で、自分の正直な気持ちを伝える歌を、返したい。  陽子からの、最初で最後の恋文に、返事を書きたい。  私はそう思いながら、穏やかな日々を過ごしている。  雪に触れ、月を仰ぎ、花の香りをかいでも。  陽子の笑顔を思い出しているよ。  いつか、一振りの梅の枝に返歌を結わえ、陽子の墓前に供えたい。  花散れど 春は続くよ この道が  地平線へと伸びるよに 【おわり】
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