つれづれ

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 専業主婦の私と違い、夫の生活はほぼ常に誰かと共にある。通勤中も他人と密着する狭い電車に揺られ、昼食は社食でとる。そんな夫にとって、リラックスできる時間は自宅にいる間だけなのだと、理解はできる。  結婚する前なら、あるいは私がもっと若く夢見がちなら、「いつもがんばってるあなたが自然体でいられる場所になりたいの」とか、思ったかもしれない。  でも。  自分に原因があるわけでもないのに、不機嫌な人間と同じ空間にいることは、想像以上に精神を疲労させるものだ。  はじめのうちは、ご近所の問題をふったり、新調した夫のシャツを褒めたりと、気を遣って話しかけたりもした。  でも、不機嫌なときの夫には、何を言ってもダメで。 「そんなやつ、相手にする方がバカなんだ」 「値段相応の品質ってだけだろう。社交辞令みたいなことを言うなよ、疲れる」  そんな風に言われ、余計に重い沈黙が下りるだけだった。  かといって「自分の部屋」というもののない私には、2LDKの自宅に逃げる場所もないのだ。 「私に関係のないことで、不機嫌でいられても訳がわからないし、こっちまで嫌な気持ちになるわ」  3年間耐えて、意を決して口に出したお願いに冷たく返されたとき。  夫への恋が、完全に終わったのだと思った。
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