70人が本棚に入れています
本棚に追加
専業主婦の私と違い、夫の生活はほぼ常に誰かと共にある。通勤中も他人と密着する狭い電車に揺られ、昼食は社食でとる。そんな夫にとって、リラックスできる時間は自宅にいる間だけなのだと、理解はできる。
結婚する前なら、あるいは私がもっと若く夢見がちなら、「いつもがんばってるあなたが自然体でいられる場所になりたいの」とか、思ったかもしれない。
でも。
自分に原因があるわけでもないのに、不機嫌な人間と同じ空間にいることは、想像以上に精神を疲労させるものだ。
はじめのうちは、ご近所の問題をふったり、新調した夫のシャツを褒めたりと、気を遣って話しかけたりもした。
でも、不機嫌なときの夫には、何を言ってもダメで。
「そんなやつ、相手にする方がバカなんだ」
「値段相応の品質ってだけだろう。社交辞令みたいなことを言うなよ、疲れる」
そんな風に言われ、余計に重い沈黙が下りるだけだった。
かといって「自分の部屋」というもののない私には、2LDKの自宅に逃げる場所もないのだ。
「私に関係のないことで、不機嫌でいられても訳がわからないし、こっちまで嫌な気持ちになるわ」
3年間耐えて、意を決して口に出したお願いに冷たく返されたとき。
夫への恋が、完全に終わったのだと思った。
最初のコメントを投稿しよう!