70人が本棚に入れています
本棚に追加
夫との結婚が決まったとき、それを最初に報告したのは親友の陽子だった。
半年の交際の後にレストランでプロポーズされ、その足で踊るように陽子の部屋へ行ったのだ。
当時、彼女は一人暮らしだった。
私はちゃんと夫が好きだった。
ちゃんと、と言うのは変かもしれないが、結婚して数年たち、愛の冷めた妻たちの常套句は「もともとそんなに好きで結婚したわけじゃないし」だ。
それを知っているからあえて言う。
私は彼が好きだった。だからプロポーズされて、とても嬉しかった。
興奮し、浮かれた気分で、私は陽子に電話して部屋に押しかけた。
「私、結婚するよ!」
そう報告すると、陽子はにっこり笑って、「おめでとう」と言ってくれた。
「よかったねあゆみちゃん、幸せになってね」と。
金曜の夜だったので、私はそのまま陽子の部屋に泊めてもらった。2人で少しお酒を飲み、お菓子を食べて、セミダブルのベッドに一緒に横になって明け方まで話した。
「友人代表のスピーチは陽子に頼むからね」
私がまだ彼とも話していない結婚式の構想を語るのを、陽子はにこにこと聞いてくれた。スピーチで披露するエピソードとして、どれがいいかなと、2人で思い出を語り合った。
カーテンを開けるとあまり絵にならない半月が出ていて、陽子はそれでも笑顔で振り向いた。
「月が、きれいだね」
そう言って笑った。
映画のワンシーンのように、きれいだった。
最初のコメントを投稿しよう!