70人が本棚に入れています
本棚に追加
夫との関係が冷え切ってから、6回の結婚記念日が通過した。その度に胸をよぎるのは、かつてあったはずの夫へのときめきや甘い思い出ではなく、あの日の月と陽子の笑顔だった。
夫への恋が消えても、家族として一緒に暮らせない訳じゃない。小学2年生の娘を中心に、我が家には穏やかな時間が流れている。
私は結婚10年目の主婦として、絵に描いたような平凡な毎日を過ごしていた。
師走の迫ったある日、私宛てに1枚の喪中はがきが届いた。差出人は、一度も会ったことのない、陽子の母親だった。
本年九月に長女 陽子が40歳で永眠いたしました
何度目を通したかわからないその文面が、私の心を木枯らしのように吹き抜ける。
陽子が、永眠……?
私は真冬の郵便受けの前で、凍りついたように立ちつくした。
最初のコメントを投稿しよう!