つれづれ

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 夫との関係が冷え切ってから、6回の結婚記念日が通過した。その度に胸をよぎるのは、かつてあったはずの夫へのときめきや甘い思い出ではなく、あの日の月と陽子の笑顔だった。  夫への恋が消えても、家族として一緒に暮らせない訳じゃない。小学2年生の娘を中心に、我が家には穏やかな時間が流れている。  私は結婚10年目の主婦として、絵に描いたような平凡な毎日を過ごしていた。  師走の迫ったある日、私宛てに1枚の喪中はがきが届いた。差出人は、一度も会ったことのない、陽子の母親だった。  本年九月に長女 陽子が40歳で永眠いたしました  何度目を通したかわからないその文面が、私の心を木枯らしのように吹き抜ける。  陽子が、永眠……?  私は真冬の郵便受けの前で、凍りついたように立ちつくした。
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