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「陽子の、2つ上のいとこのお兄さんは、お元気ですか?」
私がそう聞くと、陽子の母親は怪訝そうな顔をした。
「いえ、あの、私の記憶違いかもしれませんが……前に陽子が、2つ上のいとこのお兄さんの話をしていたのを、急に思い出したんです」
間違いだとは言わず、陽子の母親は懐かしむような目で静かに微笑んだ。
「陽子のいとこは、女の子ばかりなんですよ。お正月には集まってかるたなんかして、それはにぎやかでね……」
元気だった頃の娘を思い出したのか、陽子の母親は「ちょっとごめんなさいね」と断って、和室を出て行った。
(やっぱり、そうだったんだ……)
陽子には、「いとこのお兄さん」なんていなかった。
仏壇の前で一人になった私は、畳に置いた紙箱の蓋を、そっと開けた。
「陽子があなたとの思い出をしまっていたのだと思うの。見てやってくれるかしら」
そう言われ手渡された、贈答用のお菓子が入っているような、上等な和紙の箱だった。
一番上に、細長い封筒が入っている。
手紙だろうか。中身がないかのように、薄い。
お別れの言葉などが書いてあったら泣いてしまいそうなので、それは最後に読むことにした。
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