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黄金のトマト
優しい彼の、醜い彼の、愛を伝える彼の。
その伝え方が、余りに強烈でしたから彼から受けた愛以外の感情の全てを忘れてしまいまして。
「×××の為なら、死んで見せるよ。」
彼は言うと、ビニール紐をドアノブに掛け、糞尿を垂れ流すからとごみ袋とタオルを尻の下に敷いて、死にました。
彼は、喉をかきむしり涙を溢し鼻水を垂らしヨダレを泡立て尿を漏らしもがいていました。私は、無感動に見ていましたが、なんだか死んでほしくないな、と思い、もがかなくなった彼に近づき、彼を吊る紐をカッターで切りました。
彼は重力に押し倒され自身の尿で顔を濡らしました。
「死ぬのでしょうか、死んでしまったのでしょうか」
触れば温かく、しかし顔は蒼白。暫くしてゴホゴホと咳を繰り返す彼は、恐らく死ぬのです。
人間の感情を持ちたいと呟いた、感情の薄い化け物の為に「自分の全てを無くせるのが愛って感情で、愛は世界を救えるんだ。きっと、×××のことも救ってくれる」と優しく笑い頭を撫でた彼は死ぬのです。
私の為に彼が死ぬことは、芯を燃やしつくし、血液に熱を持たせ、体中を暴れまわる快感のようでありま した。
彼が、私のために死ぬ。私以上に大事なものがないのだ、この人は。と、幾度となく頭の中で唱えていると、笑いが堪えきれなくなるほどに 愉快でした。
この尿にまみれた彼に、化け物の私は、愛を覚えているようです。
「私を愛しているのでしたら、舐めてくださいます?」
きっと、私は心底楽しそうに笑みを浮かべているのでしょう。どうしようもなく幸せでありました。
手に尿を擦り付け、苦し気に息をしながら空中を眺める彼の口許へ運び、口調とは裏腹に舐めてくれと乞うように願っていました。
体は、まるで発情期の猫のように彼を求めていました。まるで心臓が二つに分かれてしまったような気分でした。
爪の先まで鼓動が揺らし、汚ならしいこの身を、どうかお許しくださいと頭をつき、すがりたいような、不思議な気持ちでありました。
世の人々は、こんな愛を覚えているのでしょうか。世の人々は、どうしてその身を壊していないのでしょうか。私は、ただ一度の愛に、体がおかしくなっているというのに、どうして。
それとも、私は化け物ですから、こんなにも痛みを覚えているのでしょうか。
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