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人里離れた山奥にある老人ホームの一室で、今朝もナカムラさんは目覚めた。
ゆっくりと体を起こして、気持ちよく伸びをした。
6畳ほどの広さの清潔な部屋。
ナカムラさんの寝るベッドの他に、小さなテーブルと椅子のセット、パソコンの載った机がある。
そして、部屋の片隅には、人間の身長程の円筒形をした機械が立っていた。
円筒の両側には、人間の手を模した、機械のアームが付いている。
その上、頭部にあたる位置は、ディスプレイが載っている。目立たないが、こちらを観察するためのカメラも内蔵されているはずだ。
いつの間にか、円筒の頭部ディスプレイの画面が明るくなっていた。
「おはようございます、ナカムラさん」
画面の向こうからは、若い男の顔が愛想よく笑いかけてきた。
何度か見たことのある顔の職員だ。
「はいはい、おはようございます」
挨拶を返すナカムラさんだが、この職員の名前は知らない。
「ナカムラさん、朝ごはん出来てますよ。
今朝は食堂で食べますか?」
「いや、この部屋で食べます。お願いできますか?」
「わかりました。それでは、食事を運んできますね」
画面の向こうの職員が、下を向いて何か作業をしている。端末を操作しているのだろう。
ほどなくして、部屋のスライドドアが開き、朝食の膳を載せた四角い機械が入ってきた。自走キッチンワゴンだ。
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