1人が本棚に入れています
本棚に追加
勇者リリアスと魔王
「死んで、下さい。」
彼女は、リリアスは顔を歪めながら言った。長い戦いの果てに彼女は魔王との戦いに勝利しようとしている。
リリアスは魔王に馬乗りになって彼の首に剣を当てている。力を込めてその首を切り落としさえすれば、彼女の勝利だ。世界の平和は守られる。リリアスは世界を救った英雄になるだろう。しかし、彼女の顔は晴れなかった。__剣が動かない。
脳裏をよぎるのは、魔王との、いや「勇者」との日々だった。
「…どうした、俺の首を取れよ。」
虚空を見つめながら魔王は言った。自らの死を待つその姿は、彼女にとって耐えがたいものだった。
首を斬ろうにも、視界が滲んでどうにもならない。
「ホント、お前は昔からそういう奴だったよ。」
かつて勇者だった男は言った。
リリアスは彼と出会い、勇者として共に旅に出た。
国から国へ、山から山へ、里から里へと、長い時を過ごした。
彼らにはもう一人仲間がいた。
__銃使いの〝カルラ〟_
カルラもまた、リリアスの仲間であり、友であった。
リリアスは、長い旅の間で、カルラと彼の間には、リリアスが入っていけない〝何か〟があることに気づいた。
二人は互いを想っている。愛し合っていると。
だから、自分から二人のそばを離れた。二人の歩く先の未来には、自分は邪魔になると思ったのだ。自分の大好きな二人が愛し合う。…こんなに素晴らしい事はない。だから自分も自分の未来と向き合い、一人で勇者として生きて行こう。そしていつか二人に笑って会うのだ。…そう思った。
___カルラが死ぬまでは。
「俺は人を沢山殺した。」
そう。彼は、徐々に狂って言った。聖書や魔道書を読み漁り、呪術にのめり込んでいった。悪魔と出会い、その悪魔に囁かれ……罪なき人を生贄に捧げる様になったのだ。もう一度カルラを蘇らせる為に。
そして彼はいつしか魔王になった。
そして、今、勇者・リリアスに長い戦いの末に殺されようとしている。魔王は言った。
「…早く殺せ。」
リリアスは剣に力を込めた。
「分かって、る」
殺さなければならない。彼は、世界の敵なのだから。
出来る事なら、綺麗に死なせてあげたい。
「貴方の、未来に先があり、ます、ように」
___ 先なんてねぇよ。地獄に行くんだから。
そんな魔王の言葉を聞きながら、
リリアスは嗚咽をこらえて、その首を斬り落とした。
「愛していました。」
最初のコメントを投稿しよう!