勇者リリアスと魔王

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ーーある世界の春の放課後。 「ふっざけんなよ、お前!」 そんな怒声が聞こえた。 春の陽気に溢れた校舎に似合わない声。俺はカバンをほっぽり出して、声のする方へ走った。 体育館の方だ。 目に入ってきたのは、同じ高校の二人の女子。 一人は、もう一人に酷く腹を立てている様で、大声で攻め立てている。 「アイツに色目使ってんじゃねーよ!」 そう言ってカバンを奪い取る。そして中身を地面にブチまけようとした。 「や、やめて!」 学園ドラマによくありがちなワンシーン。 悪役は…同じクラスのアイツだった。 「何やってんだ、奈美恵…」 柏木奈美恵は酷く面食らった顔で振り向いた。 「大輝?!」 俺は、カバンを奪い返すと、怒鳴られていた宮川渚の手を掴んで走り出した。 奈美恵に背後から大声で怒鳴られた気がしたが、無視をした。 「ハァ、ハァ、…」 息を切らして走り去った先の土手で俺は、宮川渚に向き合った。 「大丈夫?…怒鳴られてたみたいだけど。」 「大丈夫、です。…あ、ありがとうございました!井上さん!」 酷く走ったせいか、やや上気した顔のまま、宮川渚は俺に頭を下げた。 「いや、全然…俺、逃げただけだし。…殴られたりとか、しなかった?」 「いえ、特には…」 首を振った彼女に安堵した。 「明日、奈美恵には話つけとくよ。…宮川さんにもう関わるなって。」 そう言って、俺はその場を後にしようとした。…が、右の袖が引っ張られるのを感じて振り向いた。 「あの、、何かお礼したいんですけど…よ、よ、」 「よ?」 宮川渚は顔を勢いよく上げて言った。 「ど、どこかで、お茶しませんか!!」 驚いて心臓が飛び出そうになった。 それは、高校ニ年の春の日の出来事だった。 柏木奈美恵は、その様子を橋の上から見ていた。 「これで、良かったんですよ。」 欄干にもたれかかると、青空を見上げて呟いた。 「今度こそ…今度こそ、幸せになって下さいね…ディオルド様、カルラさん。」 奈美恵は、いや、勇者リリアスは過去に別れを告げた。
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