勇者リリアスと魔王

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勇者リリアスと魔王

「死んで、下さい。」 彼女は、リリアスは顔を歪めながら言った。長い戦いの果てに彼女は魔王との戦いに勝利しようとしている。 リリアスは魔王に馬乗りになって彼の首に剣を当てている。力を込めてその首を切り落としさえすれば、彼女の勝利だ。世界の平和は守られる。リリアスは世界を救った英雄になるだろう。しかし、彼女の顔は晴れなかった。__剣が動かない。 脳裏をよぎるのは、魔王との、いや「勇者」との日々だった。 「…どうした、俺の首を取れよ。」 虚空を見つめながら魔王は言った。自らの死を待つその姿は、彼女にとって耐えがたいものだった。 首を斬ろうにも、視界が滲んでどうにもならない。 「ホント、お前は昔からそういう奴だったよ。」 かつて勇者だった男は言った。 リリアスは彼と出会い、勇者として共に旅に出た。 国から国へ、山から山へ、里から里へと、長い時を過ごした。 彼らにはもう一人仲間がいた。 __銃使いの〝カルラ〟_ カルラもまた、リリアスの仲間であり、友であった。 リリアスは、長い旅の間で、カルラと彼の間には、リリアスが入っていけない〝何か〟があることに気づいた。 二人は互いを想っている。愛し合っていると。 だから、自分から二人のそばを離れた。二人の歩く先の未来には、自分は邪魔になると思ったのだ。自分の大好きな二人が愛し合う。…こんなに素晴らしい事はない。だから自分も自分の未来と向き合い、一人で勇者として生きて行こう。そしていつか二人に笑って会うのだ。…そう思った。 ___カルラが死ぬまでは。 「俺は人を沢山殺した。」 そう。彼は、徐々に狂って言った。聖書や魔道書を読み漁り、呪術にのめり込んでいった。悪魔と出会い、その悪魔に囁かれ……罪なき人を生贄に捧げる様になったのだ。もう一度カルラを蘇らせる為に。 そして彼はいつしか魔王になった。 そして、今、勇者・リリアスに長い戦いの末に殺されようとしている。魔王は言った。 「…早く殺せ。」 リリアスは剣に力を込めた。 「分かって、る」 殺さなければならない。彼は、世界の敵なのだから。 出来る事なら、綺麗に死なせてあげたい。 「貴方の、未来に先があり、ます、ように」 ___ 先なんてねぇよ。地獄に行くんだから。 そんな魔王の言葉を聞きながら、 リリアスは嗚咽をこらえて、その首を斬り落とした。 「愛していました。」
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