溶けるまで待てない

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職員室に帰るとふと窓に映った醜い自分の姿が目に入った。 髪はボサボサ。目の下にはクマができ、可愛いはずのエプロンもオレンジジュースをこぼされた跡で変色している。 ああ、今日のデート断ってよかった。 こんな身なりで行っても嫌われるだけ。返信なんか来てるわけないけど、と携帯を確認する。やっぱり来てない。もう幻滅されたのかもね。 冷凍庫からカップのバニラアイスをとりだし先生たちみんなで食べていた。カップに一口残ったアイスを見てゆうたくんを思い出した。 私も彼からの返信をアイスが溶けるまで待ってみようかな。もしそれで返信が来なかったら私ももう諦めよう。こんなことで悩み続けるのも馬鹿みたいだし。 暖房が効いた部屋でアイスが溶けるのは思ったより早かった。 表面が溶け始めて光沢を持っている。 やっぱり溶けきったら電話しよう!うん、そうだ。電話だ、電話。 ふと私の脳裏に氷を睨み続けていたゆうたくんの姿が浮かんだ。 これってなんかずるい。 電話なんてずるい。 こんなんじゃ伝わらないよ。 ガタン。 大きな音を出して立ち上がった。 失礼しますっ。 ノックもしないで園長室に入ると驚いた顔をした園長先生に言った。      「申し訳ありません!私情ではあるのですが、今日は大事な人との約束があって、どうしても、今行かないといけないと思うんです。帰らせてくださいっ。」 驚いた顔をしていた園長先生は園児に向けるように微笑んで言った。 「あなたがこの1年休むことなく頑張ってきたのはよく知っています。そんなに大事な用事なら行ってらっしゃい。『ともこ先生』というエプロンを外して、ひとりの女性としてね。残りの仕事は私がやっておきましょう。楽しんでらっしゃい。」 ありがとうございます、と叫んで部屋を飛び出した。 荷物をまとめて保育園の外に出た。オレンジジュースがこぼされたエプロンは椅子にかけた。あーもう、明日はエプロンなしでいいや。今はそれどころじゃない。 自転車で来たことも忘れて走って保育園を出ると見覚えのある車が前方からやってきて驚いた私は固まった。
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