溶けるまで待てない

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車を運転していた人と目があった。 私が今一番会いたかった人。 仕事帰りの彼を見るのは初めてだった。 朝固めたであろう髪は崩れ始め、ネクタイは少し緩んでいる。 ああ、毎日疲れていたのは私だけじゃなかったんだ。 ごめん そう呟いて涙が溢れ出てきた。 彼は慌てて近寄り、朝からずっとズボンに入ってたからしわくちゃだけど、とハンカチを手渡した。 心配そうに私の顔を覗き込んで彼は吹き出した。      「何で泣いてんだよ。そんな顔だとデートは無理そうだな。今日は俺の家こいよ。ご馳走しますよ、お嬢さん。」 冗談を交えて言った彼を見て私も思わず笑った。 彼の手はしっかり私の手を握っていた。 ああ、なんだかんだ素敵な一日になったじゃないですか。 彼の家は驚くぐらい綺麗に片付いていた。 私がデートに行けないと言うだろうと思っていた彼は昨日のうちに部屋を片付けていたらしい。 アイスでも食べながらテレビ見よーぜ、と言い彼は私が大好きなバニラアイスを持ってきた。 バラエティ番組に朝の子供向けの歌番組を卒業した歌のおにいさんが出ていた。私はテレビに視線が釘付けだ。それを見た彼は、歌のおにいさんには敵わないなあと笑った。      そーいえば何で今日あんな形相で保育園出てきたの、アイスを食べながら聞く彼。少し考えて私は答えた。それはね…… 「アイスが溶けるまで待てなかったからよ。」 『溶けるまで待てない。』終わり。
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