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「男の人かぁ、女の人かもわかんないですぅ」
カホに、人事の誰から豊島の死因を聞いたか尋ねたが、性別さえ覚えていないらしい。
「その人の姿を見てないの?」
「内線でしたからぁ。でも、なんかぁ」
「なんか?」
カホは思い出そうとしているらしく、こめかみに指を当てうなった。
「うー、人の声、じゃない感じでしたぁ」
人の声じゃない?
「キカイ、みたいなぁ?」
その途端、ゾクゾクとして止まらなくなった。機械なような、声。
思い出そうとしているカホを、私は右手で制した。
「あ、うん。もういい」
「ええー? 待ってださいよう。いまー、せめて男か女か思い出しますカラァ」
「良いって言ってるだろう!?」
苛立ち、目の前の机を叩いた。カホは目を丸め、間抜けな顔で口を結んだ。
電波時計を確認すると、
「17時になったので、先に失礼します」
自分のパソコンの電源を切る。立ち上がり周囲に頭を下げると、退社した。カホの睨みつけるような視線や、呆れたような派遣社員からの視線もあったが、全て無視した。
会社から出る前にロッカーへ荷物を取りに行くと、中にメモが貼ってあった。
『植田弘実 様
約束の報酬を受け取りに参ります。
お手数ですが、下記の通りお願いいたします。
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