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ひそひそ、話しかけてくる。隣の席の内山カホだ。退社後は合コンばかりしている、腰掛け派遣社員だ。上司の豊島を除くと、弊社のお客様電話問合せ窓口は私のみが社員で、この女を含む他の6人は派遣社員だ。電話口は豊島の分はないので、たったの7。新商品で問題があったりすると、電話は鳴り止まない。
カホは、聞けばすぐに頭が足りないと分かる、舌ったらずな口調で話す。
「豊島係長、昨日の月曜無断欠勤したじゃないですか。なんかぁ、さっき人事の人から内線でぇ、自宅で倒れて死んでたらしいんですよぅ。それでー」
カホの声には、直近の上司が死んだと言うのにまるで悲しみの色がない。それどころか、話したくてたまらないという様子で、上司が変死するという非日常な出来事を楽しんでいるようだった。
「死亡解剖ってのをしたらぁ、ーとけてたんだってぇ」
「なにが?」
カホは目を丸くした。いつも黙って頷く程度の私が、彼女の話に声を出して応えたからだろう。彼女は私の問いに、小声で答える。
「のーみそ」
その言い方に、笑みがこぼれそうになるのを抑えながら、「急に亡くなるなんてお気の毒に」と小さくつぶやいた。カホは、次に出勤してきた派遣社員の女性に駆け寄っていった。この話をするのだろう。
私は一人になると。呟いた。
「お悔やみ欄にはのってなかったけど。あいつは本物なんだー」
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