メルト

1/5
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ

メルト

 元々廃ビルがあることは知っていたので、すぐに辿り着いた。中は薄暗かったが、スマートフォンの明かりを頼りに階段を見つけ、上へ登る。外から見たところだと、6階建てのようだ。長い間人が足を踏み入れていないのであろう、ほこり臭さに辟易しながら、屋上へと足を進めた。  息が切れてきた頃、やっと屋上に繋がると思われる扉が現れた。手をかける前に電波時計で時間を確認する。17時56分。ギリギリ間に合った。金も途中のコンビニでおろしてきた。  ドアノブを捻るだけなのに、何故かひどく緊張した。理由はわかっている。  この扉の向こうに、いる。頭の中をとかせる殺人鬼。メルト。豊島剛を殺した化け物ー。  意を決して、扉を開けた。  ほとんど日が落ちかけた夕暮れ。私に背を向ける形で、奴は、いた。  私に気付いたのか、ゆっくりとこちらを向く。電話番号の件の周到さから、仮面などで顔を隠していると思ったが、意外にも素顔だった。依頼主である私を共犯者、などと呼んでいたから、顔を知られても良いと思われているのかもしれない。    私は奴の容姿に、少々虚をつかれた思いがした。 「やぁ、待ってたよ」 「お前、女、か?」     
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!