アリスと詩音(過去編)

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人は、その人生において新たな扉を開くと、心が晴れやかになるとともに、気も大きくなるものらしい。 つい30分前までの私と、今の私は、見た目は変わらないかもしれないけど、確実に違う。 別人だと言っても差し支えない。 だって、さっきまであんなに遠い存在に思えていた歌恋が、急に身近に感じられるようになった。 そして、身近に感じていたはずのオクテの美香のことを、哀れな存在のように思い始めていた。 それだけ私にとっては、ターニングポイントだった。 いや、大げさだけども。 公園からの帰り道。 高台からの下り坂を、詩音と手を繋いで歩く。 そうは言っても、私はファーストキスの余韻でドキドキしたままだ。 詩音に手を引かれ歩きながら、さっきまで、これがファーストキスだってことを詩音には隠しておこうと考えていたことを思い出した。 もう途中からそんなことを考える余裕も無くなってたんだけど。 そもそも、どう取り繕ったって、ファーストキスだとバレる未来しか思いつかない。 でも。もういいんだ。 キス未経験は今日で卒業。 これからは堂々と歌恋との恋バナに参加できる。 そんなことを考えて頬が緩んでしまっていた私のスマホに、LINEのメッセージが届く。 詩音と繋いだ反対の手でさりげなくポケットから取り出して画面のポップアップを確認すると、その歌恋からのメッセージは短く一言『済んだ?』とだけ。 私はさりげなく親指一つでスマホを開き、『おけ』とだけ入力して送信して、またスマホをポケットに落とした。 するとすぐ折り返しのメッセージが届いたのか、スマホが震えたのに気づいたけど、内容はだいたい予想がつくのでスルーした。 そもそも、手を繋いでいるのに、こっそりこんなことしてたら詩音に申し訳ない。 私は詩音とつなぐ指に、グッと力を込めた。
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