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それなのに。
今度は詩音のスマホが着信を告げるメロディを奏で始める。
そして、詩音は私に「わりっ」と一言断ると、私と繋いだ手を解き、ジーンズのポケットからスマホを取り出し、発信者を確認すると、無言でその着信音を止めた。
「急ぎじゃないから出なくていいや」
そう言って詩音はスマホをお尻のポケットにしまった。
実は私、最初詩音がスマホを取り出す瞬間、一瞬だけ画面が見えていた。
そこに表示されていた発信者名は「井上」
「誰だったの?」
「んー、親」
私の問いに、そう答えた詩音。
ねえ、なんで隠すの?
井上って、あの井上さん?
違うよね?
ていうか、そもそも隠さないといけないことなの?
私の頭の中で、様々な思いがグルグル回り始める。
仮にそれが本当にあの井上さんだったとして、詩音にとっては中学時代からの友達の一人な訳で。
隠さないといけないような間柄じゃないはずだし、そもそも、私が気にするほどのことじゃないけど、誤解を招かないようウソついたのかもしれない。
「ふーん」
私はそれ以上聞かないことにした。
代わりに、詩音の腕を抱くように自分の体を密着させ、肩に頭を預けた。
この時間、人通りがほとんど無くてよかった。
下り坂を抜け、駅に続く大きな通りに出た。手は繋いだままだけど、さすがにここでは体を離して歩くことにした。
誰に見られているのか、たまったもんじゃない。
「そうだアリスさあ、明日の午後、ヒマ?」
もうすぐ駅に着こうかというタイミングで、詩音が切り出した。
明日は月曜日だけど、土曜日が学園祭最終日で登校日扱いになっているので、振替で休校日になっている。
「午前中は女バスは部活だけど、午後からは空いてるよ。男バスも同じでしょ?」
私は頭の中に入っているバスケ部の練習スケジュールを思い浮かべてみた。
バスケ部の男女とも、朝9時から12時まで第一体育館で部活のはずだ。
「なあ、部活の後、午後からウチ来ない?」
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