波乱

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波乱

「もういいっ!聞きたくない!」 そう言って私はリビングを飛び出し、自分の部屋に駆け込んだ。 制服のままベッドの上に倒れこむと、シーツを頭からかぶって、声を殺して泣く。 さっきママに言われたことが、腹立たしいやら悔しいやら。 いくらママでも許せない。 今日、金曜の午後から行われた、二学期中間の三者面談の結果は、二つの意味で最悪だった。 成績が悪いことを目の当たりにさせられたことと、それをママに知られてしまったことだ。 部活をやっていた3年の一学期より、今の方が成績が下がっていること、このままでは、志望校としてママに書かされた大学への現役合格は、奇跡でも起きない限りほぼ絶望的だということが、担任の先生の口からママに対してはっきりと告げられた。 成績が下がっているのは自分自身分かっていたことだけど、こうもはっきり言われると、改めて悲しくなる。 教室を後にし、恐る恐るママの後ろをついて歩く。 でも不思議なことに、教室を出てから帰りのバス、そしてバスを降りてからの家までの帰り道。ママは終始無言だった。 いやこれ絶対ママ怒ってる。 カフェで見つかって怒られて以降、私は表面上はいい子にしていた。詩音とも平日学校以外では会っていない。 でも、成績は伸び悩んで…というより、見つかる前より下がってるもしれない。 精神的に不安定なってるからだと思う。 でも、そんなこと言えば、またママに怒られる。 予想通り、家に着いたら着替える間も無く、ママのお説教が始まった。 お説教に詩音との交際を絡めてくるのは覚悟していたつもりだけど、それ以上だった。 ママは詩音のことをよく思っていない。 カフェで見つかって以降、ママはママで、私のバスケ部時代に知り合った保護者繋がりで、同じバスケ部の詩音のことを情報収集してたみたい。 詩音を昔から知る人の評判はママの予想通り悪かったらしく、今日の説教で、ママは、詩音との交際すら認めないと、一方的に宣告した。 そんなこんなで、私は頭に血が上って、その場を飛び出して部屋に籠城しているのだ。 成績悪いのは、ママの子だもん。仕方ない。 おとーさんと私は血は繋がってないんだから、おとーさんみたいな一流大学なんて、そもそも無理。 それなのに、『最低でも国立大学』って、娘の実力を分かって言ってるんだろうか。 だいたい、いつも顔見れば『勉強しろ、勉強しろ』って、私の学力じゃ、頑張っても近くの私立大学が関の山。 国立は無理でも、私だって近場のいくつかの小さな公立大学なら、まだ可能性はゼロではないので、そこを目指して頑張ろうとは思ってるけど、あんな風に頭ごなしに言われてしまうと、その微かなヤル気も、どこかへ行ってしまいそうだ。 そして何より、詩音のことを悪く言われ、別れろと命令されたことは、全くもって納得できない。 そりゃ、詩音は見た目も性格も少しチャラいのは、私でも分かってる。 でも詩音は、頭も良くて優しくて、私を大切にしてくれている。 ママは何も分かってない。 成績が下がったのは、詩音のせいじゃなくて、私自身の問題。 それなのに…。 もうイヤだ。 ママの顔なんか見たくない。 私はある決意とともにベッドからのそりと起き上がり、着替えを済ませると、部活で使っていたバックパックに手当たり次第に詰め込んで、部屋を飛び出した。 金曜日は、夜になると単身赴任先からおとーさんが帰ってくるので、その“決意”を決行するには、それまでにやらないと、実現が難しくなる。 玄関を出る瞬間、リビングの方からママの「アリス、どこ行くの?」と呼ぶ声が聞こえたけど、無視。 そのままダッシュで駅に向かった。
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