美人秘書からの極秘指令

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 文末の赤いハートの絵文字に、口の端が緩み――ふと我に返って表情を引き締める。愛車のガラスにはUVカットの特殊フィルムを貼ってあるので、外から車内が見えないとは言え、30男のニヤけ顔は見られたものじゃない。  胸ポケットにスマホをしまった時、仕事用のスマホがメールの着信を告げた。  ボスの美人秘書、キャサリンからの呼び出しだ。出社後、ボスのオフィスに直行する旨、メールを返すと、今度こそジャガーを走らせた。 ー*ー*ー*ー  わが社は、優華が所属する接客業の他に、福祉介護事業や不動産業、金融業など手広く業務展開している。  俺は、本社で総務部を任されている。肩書きは「主任」。わが社の代表取締役(ボス)の直轄部署――社内で密かに『ボスの雑用係』と揶揄されている通り、業務の実態は、所謂『何でも屋』だ。  毎日、定期報告に行くのだが、わざわざキャサリンから連絡がくるということは、何かトラブルか――?  今夜の優華との約束に響かない程度の仕事(ミッション)なら良いのだが。 ー*ー*ー*ー 「ばっ……バレンタイン特設売場ですか?」  出社すると、総務部がある13階ではなく、ボスのオフィスがある19階のドアを叩いた。  室内にボスの姿はなく、金髪碧眼のキャサリンだけが俺を待ち構えていた。 「フランスからのお取り寄せが、現地バイヤーの手違いで間に合わないらしいの」  勧められて、応接ソファーに身を沈める。深みのある落ち着いた香りを漂わせたティーカップが、俺の前に置かれる。イングリッシュ・ブレックファースト――彼女の紅茶好きの影響で、幾つか茶葉の種類を覚えてしまった。 「はあ……」  キャサリンは、自分のデスクに戻ると、膝丈の黒いタイトスカートから伸びた長い足をスルリと組んだ。セクシーな仕草は、俺を挑発している訳ではなく、単なるクセに過ぎない。 「お得意様用の品は、何とか代替品を確保したんだけど……」  彼女が最愛の男(ボス)に贈る予定の品だけが、手に入らなかったそうだ。 「で、その逸品が松越百貨店のイベント特設会場で、1日30個の限定販売をしている――と?」 「そうなの、ジョージ!」  彼女が上司(ボス)の公私に渡るパートナーでなければ、即行で退室したことだろう。だが、悲しいかな、サラリーマンの宿命は、それを許さない……。
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