君の瞳に恋してる

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君の瞳に恋してる

『おはようございまーす! 明日は、バレンタインデーですね!』  壁の液晶テレビに、見慣れた女子アナの姿が映る。バレンタインに合わせたのか、白いセーターの胸に大きくピンクのハートが編み込まれている。 『気象予報士のみすずさーん! チョコはご用意されましたかー?』  朝のニュース番組をBGM代わりに流しながら、いつものようにストレッチを始める。腕立て伏せ、上体起こし、スクワット、最後にランニングマシーン。 『おはようございまーす。気象予報士のみすずです。私は、ちゃんと義理チョコを用意しましたよー』  スタジオの女子アナの微妙なフリに、みすず嬢は全く動じず笑顔で答える。渡す前に「義理チョコ」と宣言するのは、受け取った男に誤解を与えないための戦略(くぎ)であろう。 『さて。今日は、全国的に穏やかな好天に恵まれるでしょう。明日14日も、寒気は一休みとなる予報です』  順調に日課のトレーニングを消化していく。日々の鍛練は、体調管理のバロメーター。特に苦痛は感じない。 『それでは、今日の1曲でーす』  朝にしてはメロウな、古い映画音楽が聞こえてきた。ピアノの旋律に聞き覚えがあるのは、つい数日前、優華の部屋で一緒に観た映画で流れていたからだ。 ー*ー*ー*ー 『ヘプバーンもキュートで素敵なんだけど、バーグマンの凛々しさにも憧れるわね』  オフホワイトの革張りソファーで寄り添いながら、ロゼワインを傾ける。隣の彼女――淡い水色のナイトウェアに身を包んだ優華は、うっとりと微笑んだ。 『ね、譲ちゃんは、どっちが好み?』  肩に回した左腕を少し曲げて、彼女の頬に触れる。しっとり柔らかな肌が掌に馴染む。 『俺? 俺は、優華が一番だからなぁ』  グラスを置いて、彼女の唇を求めようと身を起こした瞬間――。
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