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翌朝。松越百貨店の行列に並ばずに済んだ俺は、恋人のベッドで満ち足りた目覚めを迎えた。溢れ出した情欲の波に溺れるがまま、存分に交わり合い――濃厚な時間を優華に捧げた。
バスルームを出てリビングに来ると、キッチンに優華の後ろ姿があった。美脚を強調するスキニータイプのジーンズに、淡い桃色の七分袖のシャツブラウス、その上にライトオレンジのエプロンを付けている。カールの残る長い髪は、フワリと品良くまとめて結い上げてある。
「譲ちゃん。ご所望の品よ。間違いないか、確認してね」
彼女の視線を辿ると、金と赤の派手なリボンが架けられたA6サイズ程の黒い箱が、ソファー前のローテーブルに乗っていた。箱の表面には金色の文字で『JPV』のロゴと『Eternite』という単語が印刷されており、キャサリンに渡された資料と寸分違わない。
「間違いない。ありがとう」
背中から抱きしめ、口づけを交わす。少し頬を染めた彼女は、眉尻を下げる。
「さ、ブランチにしましょ」
フレンチトーストにベーコンエッグ、ミモザサラダ、カボチャのポタージュ――短時間でも妥協なく、栄養バランスを考慮した、しっかりと腹に溜まる手料理がテーブルに並ぶ。
「ね……特別なデザートがあるの。準備するから、ソファーで待ってて」
料理を平らげていく様に目を細めていた彼女だったが、全て空になると立ち上がった。
「デザート?」
聞き返すも、笑顔でソファーに追いやられてしまい、所在なく、朝刊を広げる。
「お待たせ、譲ちゃん」
ちょうど読み終わるのを待ったかのようなタイミングで、甘い香りが鼻をついた。
優華は俺の前のテーブルの上に、トレイを置いた。中央に小ぶりの鍋が乗っており、中のドロリと茶色い液体からは薄く湯気がゆらめいている。鍋を挟んで右側に、大粒の苺やカットされたオレンジやバナナが盛られた果物の大皿、左側にマシュマロが入った小皿がある。
「これは?」
鍋を乗せた台座から伸びたコードをコンセントに差し込むと、戸惑う俺の隣にピタリ、腰を下ろす。
「今日はバレンタインでしょ? これなら、一緒に――ね?」
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