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ふふっと楽し気に声を弾ませながら、細長い銀色のフォークで苺を刺し、鍋の中のチョコレートをたっぷりと絡ませた。
「はい、あーんして」
「……優華」
困り顔で抵抗するも、拒否を許さぬ小悪魔の微笑みが待ち構えている。
「ほら、譲ちゃん」
促され、仕方なく差し出されたチョコ苺に食い付いた。瑞々しい甘酸っぱさとほろ苦さが程好く混じり合い、確かに美味いのだが――どんな表情をしていいものやら。
「やぁねぇ……もぅ。口に合わなかった?」
しばらく俺を観察していた優華は、唇を尖らせる。俺は慌てて否定した。
「いや、美味いぜ。だけど自分で」
「駄目よ。貴方との甘い時間が、私にはご褒美なんだから」
口中に残る複雑な甘味が、胸一杯に広がっていく。どう足掻こうと、俺はもう彼女に身も心も包まれた――フォンデュ鍋の中の苺みたいなものか。
彼女は、フォークの先にハート形のマシュマロを付けると、チョコレートの海を潜らせる。そして、とろけるような笑顔を咲かせた。
【了】
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