君の瞳に恋してる

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『もぅ……そうやって誤魔化さないの』  彼女の指が隙間に滑り込んできて、ピタと俺の唇を押さえる。甘い誘惑は、寸でのところでお預けを食わされてしまった。 『あー……俺は、もう少しグラマーな方が好みなんだが』 『やぁね。女を身体でしか見てないのね』  至近距離で見詰め合う瞳が呆れを含んで、眉間が曇る。 『俺が内面まで知りたい女性は、貴女だけだからな。他は、どうだって構わねぇんだよ』  優華は、一瞬真顔を見せたあと、動揺も露に眉尻を下げた。  逃げ場のない彼女の指先を優しく捕らえる。細く柔らかい指の1本1本にキスを落としていくと、首もとまで肌がワイン色に染まった。 『……もぅ』  とろりと潤んだ瞳が、ゆっくりと伏せられた。今度こそ艶やかな蕾を塞ぐ。互いのワインの香りが混じり合い、極上の媚薬に身体が心地好く痺れる。  滑らかなシルク越しに、豊かな胸の膨らみを指でなぞる。その重さを掌に受けようと包み込んだところで、再び細い手にその先を阻止された。 『駄目。最後まで観てからよ』 『何度も観てるんじゃないのか?』 『貴方と一緒に観たいのよ』  鮮やかな笑顔に瞬殺され、俺は白旗を上げる。 『――姫のご要望とあらば』  溜め息を溢して、欲望を籠らせたままの身体を定位置に戻す。彼女にベタ惚れなのは、隠しようのない事実で――いつも最後は彼女のペースになる。 『夜も、私も逃げないわ』  残酷な女神は、互いのグラスにワインを継ぎ足すと、満足気に乾杯を促してきた。諦めてグラスを掲げた時――。 『……君の瞳に乾杯』  画面からタイミング良く発せられた男のキザな台詞に、思わず眉を潜めてしまった。そんな俺を見て、優華はしばらく笑い転げ――彼女を眺める内に、こっちまで笑いが伝染した。ロマンチックなピアノを掻き消してしまうほど、久しぶりに大笑いした夜だった。
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