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「開店は10時なんだけど、恐らく開店前から行列が出来ているはずなのね? 私は9時にボスを拾ってF県に向かうから、帰りは明日の午後になるのよ」
思わず腕時計に視線を落とす――間もなく7時45分。会社から飛ばしても、通勤時間帯だ……1時間は、みた方がいい。
冷めた紅茶を飲み干すと、俺はソファーから立ち上がる。
「店名と商品名を教えてください。出来れば、画像も」
「ありがとう、ジョージ! このお礼は必ずするわ!」
プリントアウト済みの資料を俺に差し出したキャサリンは、珍しく破顔した。ボスの前では知らないが、普段の彼女はモデルのようなクールビューティーで、笑顔さえアルカイックスマイルしか見せない。クシャッと崩れた血の通った表情に内心驚いたが――彼女のプライドのために、素知らぬ振りでやり過ごした。
「いえ、礼には及びません」
「でも、ジョージ」
「お気持ちだけで十分です。では、時間がありませんので、失礼します」
好意の返礼だろうと、これまでキャサリンのプレゼントにはロクな目にあっていない。彼女は不承不承だったが、全力で辞退してオフィスから逃げ去った。
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