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永遠よりも……
2時を回り、連絡を受けて、エレベーターで6階へ向かった。いつものように乗り込んで来た優華は、開口一番『何かあった?』と眉を潜めた。
キスを交わすこともなく、彼女の部屋に通された俺は、どう話そうか考えた挙げ句、現在抱えたミッションの窮状を白状した。
彼女が苦労して、上得意客のために用意した『JPV』の逸品を、鳶が油揚げを浚うかの如く、楽して譲って貰おうとは思わない。
松越百貨店に並んでも買えなかった時、何とか都合付けて貰えまいか――正直に頭を下げた。
これは、パートナーのよしみや馴れ合いで頼んでいる訳ではない。歴としたビジネスとしての交渉である。
斜め前のソファーで、シャンパンゴールドの仕事着のまま、ジッと話を聞いていた優華は、小さく溜め息を吐いた。
「そういうことなら……仕方ないわねぇ」
それから、俺が渡した紙袋から薔薇の花束を取り出して、腕に抱えた。
「ふふ……情熱的な贈り物に免じて、協力させていただきましょう」
穏やかに微笑む彼女は、美麗な恋人の顔ではなく、包容力溢れる「クラブ優華」のママの顔だ。
「優華……すまない」
「ちょうど1箱だけ、予備を買っておいたの。残ったら、こっそり戴こうと思ってたんだけど、貴方とキャサリンさんの役に立つのなら、惜しくはないわ」
「ありがとう。この埋め合わせは」
「そうね。お安くは、なくてよ?」
花束をテーブルの上にそっと離すと、彼女の左手が俺の膝に触れた。見上げてくる瞳は意味深に熱を帯び、妖艶な恋人の顔に戻っている。
「私が、今夜会いたいと言った理由は、分かってるでしょう?」
「優華――」
グイと腕を引くと、待ちきれないと言わんばかりに身を寄せてきた。その細腰を腕に抱き、唇を重ね合う。深く激しく求め合い、身体の芯に炎が点る。
「譲ちゃん……並ぶ必要が無くなったのだから、その時間を、私に頂戴」
細い腕が、項に背中に絡みつく。首筋にかかる吐息は熱く、耳元への囁きは甘い。色香をまとう肌が、情欲を掻き立てる。
「ああ……望むところだ」
男と女の輪郭を崩し、早く溶け合いたいと昂る波が渦巻いている。
しっかりとしがみ付く優華を抱き上げる。密着を緩めることなく、寝室に籠った。
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