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夜空に浮かぶ月を見上げて思案する。
受け入れよう。みじめな自分を。
こんなことに巻き込まれたのは、そもそも俺が猫になったからだ。
猫になった自分を受け入れる。そして、自分の力でここから抜け出すのだ。
腹の底がカッと熱くなる。
気持ちが決まった途端に心臓が高鳴って熱が全身に回った。
思わず目をつぶって……次に目を開けた時には目線の高さが変わっていた。
俺はたわんだ縄を抜けてベッドから飛び降りる。
しなやかな四肢が屋上の床を踏む。
無粋な音なんか立てない。今の俺は黒猫だ。
月光を浴びながら屋上の扉に向けて歩き出すが、途中で止める。この猫の身体では扉のノブを回せない。閉まった扉が開かなければ、下に降りることはできない。くるりと身を翻して、屋上のガスタンクみたいな置物に駆け上がる。
そこからフェンスが低く、なおかつ屋根が張り出している箇所を探した。
人間の姿ならこんな無茶はしない。
けど今の俺には飛び降りられるという不思議な確信がある。
ひらりと跳躍して屋上の下にある屋根に飛び移る。そこからベランダの手摺りや壁の突起を伝って、校舎を降りていった。
夜風が毛並みを撫でる感覚が心地よい。
猫の姿で跳躍するのは快感だ。思ったところに着地できるとえもいわれぬ達成感がある。するすると案外簡単に、校庭まで降りることができた。
校庭を見回すと、人気のないグラウンドに向き合う二人の人影があった。
狗乃森と遠藤だ。
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