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対峙する二人、遠藤と狗乃森は俺の接近に気付いていなかった。ふと思いついた俺は、学校につきものの二宮金次郎の像によじのぼって、そこから狗乃森に向かって飛び降りる。
そのまま高笑いする狗乃森の後ろ頭を蹴倒してやった。
ざまあみやがれ!
猫の姿で狗乃森の背中を踏んづける。
地面に這いつくばって悲鳴をあげる狗乃森。
あー、すっきりした。
こちとらお前のせいで散々な目にあったんだよ。このくらいは別にいいだろ。
「幸宏(ユキヒロ)」
遠藤が俺の姿を認めて驚いたように目を見張る。
微かにアクアブルーに光る瞳に安堵の色がよぎった。
遠藤は倒れた狗乃森はもう見ないで、俺だけを見て少ししゃがんで両腕を広げる。
俺は狗乃森の頭を念入りに踏んづけながら地面に降り、なにやら筆記用具が散らばっている地面を注意深く走り抜けて、遠藤の腕の中に飛び込んだ。タイミングを合わせて遠藤が俺を抱え上げる。
自分の足で歩くのは面倒くさい。後は遠藤が抱えて運んでくれるだろう。
「……うぐぐ、待て」
遠藤は黒猫(俺)を抱え、倒れている狗乃森を放って校門へ歩き出した。
その背中に声が掛かる。
「覚えてろよ……遠藤、須郷!」
恨み文句を言われた遠藤は、肩越しに振り返って嘆息した。
「覚えないさ。そんなに暇じゃない。お前と違って有限の命を持つ僕達は、どうでもいいことにかかづらってる時間がもったいないんだ」
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