05 猫たちの時間

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 対峙する二人、遠藤と狗乃森は俺の接近に気付いていなかった。ふと思いついた俺は、学校につきものの二宮金次郎の像によじのぼって、そこから狗乃森に向かって飛び降りる。  そのまま高笑いする狗乃森の後ろ頭を蹴倒してやった。  ざまあみやがれ!  猫の姿で狗乃森の背中を踏んづける。  地面に這いつくばって悲鳴をあげる狗乃森。  あー、すっきりした。  こちとらお前のせいで散々な目にあったんだよ。このくらいは別にいいだろ。 「幸宏(ユキヒロ)」  遠藤が俺の姿を認めて驚いたように目を見張る。  微かにアクアブルーに光る瞳に安堵の色がよぎった。  遠藤は倒れた狗乃森はもう見ないで、俺だけを見て少ししゃがんで両腕を広げる。  俺は狗乃森の頭を念入りに踏んづけながら地面に降り、なにやら筆記用具が散らばっている地面を注意深く走り抜けて、遠藤の腕の中に飛び込んだ。タイミングを合わせて遠藤が俺を抱え上げる。  自分の足で歩くのは面倒くさい。後は遠藤が抱えて運んでくれるだろう。 「……うぐぐ、待て」  遠藤は黒猫(俺)を抱え、倒れている狗乃森を放って校門へ歩き出した。  その背中に声が掛かる。 「覚えてろよ……遠藤、須郷!」  恨み文句を言われた遠藤は、肩越しに振り返って嘆息した。 「覚えないさ。そんなに暇じゃない。お前と違って有限の命を持つ僕達は、どうでもいいことにかかづらってる時間がもったいないんだ」
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