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 彼の話をしよう。それは俺が高校を中退した後、いくつかの職場を転々とした後、ほぼ野垂れ死に寸前の時に拾ってくれたのが彼である。職場と言っても、ほとんどが土方の仕事で、元々体力のなかった俺は、まともな仕事もできないうちに頚になっていた。そもそも、右手の指が三本欠けているのだから、スコップさえまともに握ることができないのだ。しかし、この景気の悪い日本で中卒にいい仕事がある訳もなく、しかも住所不定でその日暮らしの俺にはそれしか仕事の働き場はなかったのだ。最初は道路工事から始めて、鳶も経験したが、どちらも三ヶ月ほどで親方から数万円を入れた茶封筒を無理矢理渡されて、明日から来なくていいと言われた。その代わりと言っては、と親方から別の働き場を紹介され、それに従って北上してきた。何度かそんな事を続けている内に、最後は最低賃金で工事現場の誘導係の仕事、つまり棒振りにありつけたのだが、俺が立っている時に正面     
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