穢れ無き眼

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「神様っているのかな?」 まだ幼き眼でそんな言葉を放った少年の顔を今でも覚えている。 暗い夜だった。空一面に垂れ落とされた星々と、五月蝿い月があるだけの。何年も人が入っていないだろう、天井に大穴が空き、朽ち果てた教会の中から二人で空を見上げていた。 「さぁな。私が知っているのはただのヒトだが、君達から見ればそれは神様だったのかもな。」 「神様はヒトなの?」 「ヒトさ。1つの大地で様々な神秘と奇跡が起こるが、それら含めて知能を持つことを許されたのはヒトだけだ。」 「神様はヒトとは違うと思ってた。」 露骨にがっくりと顔を落とす少年。歳にして5歳半ばか、6歳か。日本人には珍しい深紅の瞳が美しい子だった。 私は立ち上がり、その少年に最後の言葉を告げた。 「人とは違うかもな。弱き者か強き者かは、確かに差があるのかもしれん。夢忘れるな、少年よ。その眼が見るモノだけを信じろ。この世はあまりにも穢れが多い。その穢れは君の瞳を濁らせることになる。」 「穢れ…?難しこと言うなぁ」 「人とは穢れを謳歌する生き物だ。その生き方を否定はしない。しかし、哀れで滑稽なコトなのだ。空に浮かぶ月を忘れるな。あれらがきっと、いつか浄化を約束する。」 少年が何か言葉を呑んだ様にも思えたが、その場を私は後にした。それ以上話すべきでは無かったからだ。私達と人とでは立場が違う。 いつの世も、どんな生命でも。 穢れを知らぬ眼は見惚れるほどに美しい。だから少し興が乗ってしまった。 だが、生命は歩めば歩めほどに汚れ、腐り、綻ぶ。 なんと残酷、なんと悲哀。 だから、いつかは浄化しなければならないのだ。 我々、穢れ無き月の民が。
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