四月、雪解け、春の匂い

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四月、雪解け、春の匂い

「一ノ瀬ーーーっ!また、明日なーーーーーーっっ!」 追い抜きざま、バスの窓から身を乗り出して精一杯手を振られる。 その顔には見覚えがあった。 思わず自転車をこいでいた私の足が止まった。 追い抜いていったのにまだ振るその手は止まらない。 そんなに身を乗り出して危ないったら。 しかもまだなんか叫んでるし。 半分呆れながら息を吐いた。 新しいクラス。 隣の席。 たったそれだけの接点しかないモブに、そんな事……わざわざしなくてもいいのに。 でも、何故かくつくつと笑いがこみ上げてきてつい耐え切れずに口がほころぶ。 見送ったバスの後ろに砂埃が舞う。 北海道の春は汚い。 雪解けの水と砂埃で道路はぐちゃぐちゃのベチャベチャ。 道路脇の日陰にはまだ雪が残っている。 汚い春はまだ続きそう。 すごく憂鬱。 ため息を吐いた次の瞬間、埃っぽい空気と共に鼻腔に届いた春の匂い。 せめて花の匂いなら情緒もあるのに。 そう思いながらも、不思議と心はポカポカと暖かい春の陽気。 『俺さー、春が一番好きなんだよね。なんか、ワクワクするじゃん?』 聞いてもいないのにわざわざ教えてくれた隣の彼。 人懐っこい笑顔を思い出して、つい私の口が勝手に緩む。 『一ノ瀬ーーーっ!また、明日なーーーーーーっっ!』 脳内で何度も繰り返し再生。 「ばか……」 明日も同じ事されたら、きっと好きになっちゃう。 了
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