オトしてみなよ桜庭さん。

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オトしてみなよ桜庭さん。

 俺、高橋涼太の一日は長い。 「はいじゃあ高橋~!この問題、前に出て解いてみろ」 「っあ……、はい」  軽く返事をして立ち上がれば、どこからか感じる視線。  ……っ……、この視線は……。  バッと窓越しに向かい側の教室を見ると、明らかに不穏な人影。……何だあの黒いの……、双眼鏡……?首から下げてんのは、一眼レフか……。  俺は朝と同様に溜息を一つ吐いてから、白チョークを手に持ち、問題を解く。幻聴だろうか。何故かシャッター音がバシャバシャと聞こえてくるような気がする。いや、この距離でそれは流石にないよな……。  ……というかいつも思うが、周りの奴等は何も言わないのか……?  って寝てんのかよ!!?  あいつのクラスの教室を遠目で見ると、ほとんどの奴が机に突っ伏していた。教師も教師で、黒板に視線を集中させている。  いや大丈夫かよお前のクラス!?  起きろ生徒!!勉学に励め勉学に!!教師も生徒をちゃんと見てやれ!!! 「――よし、正解だ!良く出来たな高橋!」 「あはは……、いえ」  ホントだよ。  心身共に疲れながら、俺は自分の席に戻った。何だかずっと監視されているような気がして、授業も実際全く集中できない。……まぁ、こんなことは、ほぼ日常茶飯事なのだが。  この生活に慣れてきてしまっている俺も、普通ではないのかもしれないな。  そんなことを考えていると、授業終了のチャイムが鳴った。 「よし!今日はここまで……」 「高橋さ~~~ん!!!あぁ会いたかったです!!貴方のことが気になりすぎて一秒に一回は貴女を見つめてしまいますしどれだけ写真を撮っても全ッ然足りなくって…!!」  うん。言っておくが、完全に慣れたわけでは決してない。  先程まで向かい側にいたというのに、チャイムと同時にいつも俺のところに来るこいつは、ワープでも使えるのだろうか。  俺は授業終わりの挨拶をしてから、呆れた顔で廊下へと足を踏み出した。
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