わたしは、リコ

6/13
32人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
「……そっか、佐藤は春から東京かー」 「やだ、まだ決まったわけじゃないよ」  二人の間を冷たい風が通り抜けます。  しょうた君は気まずそうに佐藤さんから視線を外すと、落ち着かない様子で目玉をきょろきょろと動かしました。 「あ……もしかして時間ない? ごめんね、引き止めちゃって」  ああほら、佐藤さん、誤解しちゃいましたよ。しょうた君、早く早く! 「そ、そうだな……そろそろ帰るかな」  ええっ? 何を言ってるんですか? せっかくこうして会えたのに、今しかチャンスはありませんよ?  しょうた君は、わたしの忠告に耳をかしてくれません。眉の付け根をぎゅっと寄せたまま、元来た道を歩きだしました。  だめです、だめです! このままじゃ、しょうた君の笑顔が見れません。  なんとかしなければ。でもわたしには、どうすることもできません。  ああ、神様! どうかしょうた君に、きっかけを与えてください!   ……と、祈りをささげたその時でした。わたしの目に、白く小さなものが映りました。  それは漂うようにゆっくりと、次から次へと舞い降りていきます。  このあたりでは珍しい、雪、でした。  
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!