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「……そっか、佐藤は春から東京かー」
「やだ、まだ決まったわけじゃないよ」
二人の間を冷たい風が通り抜けます。
しょうた君は気まずそうに佐藤さんから視線を外すと、落ち着かない様子で目玉をきょろきょろと動かしました。
「あ……もしかして時間ない? ごめんね、引き止めちゃって」
ああほら、佐藤さん、誤解しちゃいましたよ。しょうた君、早く早く!
「そ、そうだな……そろそろ帰るかな」
ええっ? 何を言ってるんですか? せっかくこうして会えたのに、今しかチャンスはありませんよ?
しょうた君は、わたしの忠告に耳をかしてくれません。眉の付け根をぎゅっと寄せたまま、元来た道を歩きだしました。
だめです、だめです! このままじゃ、しょうた君の笑顔が見れません。
なんとかしなければ。でもわたしには、どうすることもできません。
ああ、神様! どうかしょうた君に、きっかけを与えてください!
……と、祈りをささげたその時でした。わたしの目に、白く小さなものが映りました。
それは漂うようにゆっくりと、次から次へと舞い降りていきます。
このあたりでは珍しい、雪、でした。
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