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「お父さん、またあのおはなしして」
幼い男の子の頼みに、若い男は微笑みながら言葉を紡ぐ。
「人は、誰かに、自分を作るものを与えることができるんだ。それは『運』や『幸福』、『時間』、『力』、『記憶』といったものであり、分け与えることによって、人はそれを失ってしまうし、与えられた人はそれを元の持ち主に返すことはできない。だからこそ、それを受け取った人が、次の人にそれを紡いでいく。そうして、人は助け合って、今まで生きてきた。そして、これからも。ある人が尋ねました。どうして自分の命に代えてまで、誰かを救おうとするのかと。その男性は言いました。僕が、彼女を助けたいからそうするんだ。彼女が愛おしいからそうするんだ、と」
「うーん、やっぱり難しい。よく分かんないや」
少年のしかめっ面に、しかしながら、男は笑いながら続ける。
「でもね、いつかお前もきっと誰かを助けたいと思う日が来る。その時には思い出すんだよ」
「うん」
無邪気に笑う少年の頭を男は撫でる。
「そうだな。いつかきっとお前も…………」
少年はまだ知らない。その後、大切な人に自分の一部を分け与えて、少年がその人を救おうとすることを。
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