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2月14日。バレンタインデーであり、奇しくもその日は俺の誕生日でもある。
そのせいだろうか、僕は今まで誰からも誕生日に何かをもらったことがない。
別に愛されてなかったわけではないと思う。だが、俺は、そんな父が、母が、兄が、嫌いだった。
そして、僕は自分が嫌いだった。
2019年、2月13日までは。
その日、俺は自転車である場所に向かっていた。
そこは、如月園という緑地だ。程よく人の手が入った林の心地よい木漏れ日、サクサクと軽快な音を立てる腐葉土、そして漂う心地よい森のにおいが好きだった。
ここだけは、俺が心を休めることのでき場所だった。
だから、よくここに通っていた。常連だった。
だから、その日、俺は如月園を前にして立ち止まった。
ゴウ、といううなりをあげて、如月園の美しい木々は炎を上げていた。
俺が居眠りをしたベンチも、土地の中央へと進む小川にかかる橋も、すべてが一緒になり、天を覆うように黒い煙を吐き出していた。
ああ、と僕は息を吐いた。それが声になっていたのか、それともただの息だったのかもわからない。それほどに激しく、うなりをあげて炎が、いや、炎をまとった影が俺の方へ押し寄せてきて、そこで俺の意識は暗闇に沈んでいった。
目を開けると、そこには無機質な白壁が広がっていた。汚れ一つない、神秘的な、怖いとさえ感じるそれをぼうっと見つめるうちに、俺は自分が今までどうしていたのかを思い出した。
そうだ、俺は、如月園で倒れてきた木に……
そこまで考えてはっと思い至り、俺は体を起こし、自分の体を見る。
手に傷はない。胴体にも、足にも。服には破れも汚れもなかった。
ここは、とゆっくり周りを見渡すが、あたりには何もない。何も。
あるのは、真っ白な床だけ。白い壁だと俺が思ったものは、遠くにあるのか、それとも霧のようなものなのか、見分けがつかなかった。
と、そこまで考えて、遠くから闇が、急速に世界を包み始めた。
黒に染まっていく、黒く、黒く、闇よりも。
感覚としては十秒ほどだっただろうか。その間に視界は黒く染まって……
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