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ピコン、ピコン、という電子音が響く。
その音に慌てて体を起こそうとするが、強烈な痛みに襲われ、起き上がるのをあきらめる。
わずかに首を動かし、視線を体へやる。
そこには、痛々しいほどに包帯を巻かれた体があった。
「よかった、本当に、よかった……」
声がする方へ振り向こうとするが、しかしながら、痛みのせいで首をひねることすらままならない。
何とか視線を動かして、その視界の隅にとらえたのは、見覚えのない少女だった。
「大丈夫?ねえ優くん……大丈夫?私のこと、分かる?」
わからない。そう声に出そうとしたけれど、不気味な雑音となって病室に響くだけだった。
なんだよ、この状況。どうしてこうなってるんだよ。
焦燥が焦燥を呼び、俺の頭の中が真っ黒に染まっていく。ああ、ああ、あああああああああ……
ふっと、優しい香りがした。昔、どこかで嗅いだような、そんな香り。それとともに、体に熱が伝わる。
沈んでいきそうな意識を何とかつなぎとめて、重い瞼を必死に開ける。
そこには、先ほどの少女がいた。俺の体を、すがるようにして抱きしめて。
その心地よい暖かさに、俺はついに意識を手放した。
再び目が覚めると、そこには、先ほどの見かけた少女がいた。
誰だ、とそう思った。ようやく、思考が現実に追いついていた。
少なくとも何かを考える余裕はできた。でも、この少女のことは知らない。いや、そもそも少女と呼んでいいかさえ分からない。確かに幼くは見える。背は、多分140センチくらい。小柄で、童顔で、真っ白な髪をなびかせている。先ほどとは打って変わったその落ち着いた表情からは、長い時を生きたもの独特の雰囲気が出ていた。すべてを知っているという、そんな感じの。
「そっか、覚えてない……よね」
くしゃりと少女の顔がゆがむ。ああ、だめだ、とそう思った。この子に、こんな顔をさせてはいけないと、心の奥底から声が沸き上がってきた。
強い流れだった。
「優くん、私ね、優くんに、お礼をしに来たの。もらったもの全部、返しに来たの。だって、おかしいものね、私が持っているこれは、私のものじゃないんだもの。だから、ありがとう…………ありがとう、優くん」
寂しそうに微笑んだ彼女は、そういって……消えた。
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