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2019年、2月14日、朝。
僕は病室で目覚めた。見回りに来ていたのだろうか、枕元に立っていた看護士らしき人が、慌ててかけていく姿が見えた。
僕は、ベッドに手をついて体を起こした、いや、体を、起こすことができた。
僕の体には、確かに包帯が巻かれていた。けれど、痛みはなく、思考はさえわたっていた。
確かに痛みがあったはずだった。あの少女を見たときには。
思考がまとまらないほどの激痛にさいなまれていた。それなのに、僕の今の体からは、何も違和感がやってくることもなかった。
いつも通りだった。いつも通り過ぎた。
やってきた医者から、なぜかけがが完治しているという話を、ぼうっとしながら聞いた。自分の名前が言えるか、家はどこか、そんな質問もされた。
すらすらとそれらの質問に答えると、医者は安心したように息を吐いた。それから、俺の言葉をメモした紙をそばに控えていた看護士に渡した。
その間も、俺はぼうっとしていた。ただ、現実感がなかった。
ついさっきまで自分が自分であることを俺に感じさせていた痛みが消えたからかもしれない。それとも、あの不思議な少女にあったからかもしれない。けがが、わけもわからないうちに治っていたからかもしれない。
それら全てのせいか、それともどれかのせいか、俺は、もうわけがわからなかった。
きっとすべて夢だったのだろうと、そう思った。
退院許可はすぐに下りた。駆け付けた母は、不快な顔をしつつも、僕を胸に抱きよせた。
その眉をしかめた理由は、しばらくしてからようやく思い至った。それもそうだろう。木の下敷きになり、一晩で回復し、病院から退院する。考えてみれば、これほどおかしなことはない。
母の運転する車に乗って、自宅へ向かう。窓ガラス越しに後ろへ、後ろへと過ぎ去っていく喧騒に、俺はなんとなく耳を傾けた。
今日は木曜日で、ふつうに学校がある。
1日くらい家で休んでもいいわよ、という母の言葉を振り切って、俺は昼から学校へ向かった。幸い、昼放課中に学校に到着し、先生には適当に寝坊しました、などと言い訳をして教室へ向かった。
気をつけろよ、という先生の声に、どうやって気をつけろっていうんだ、と心の中でつぶやいた。
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