夢心地の中で

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 けれど、分からない。自分が彼女を助けたのか。そしてもしそうだとしても、なぜ彼女は、今になって俺にこんな言葉を残したのか。  分からないことだらけだった。それでもなぜか、俺の頬を温かいものが伝っていた。  慌てて教室から飛び出す。ぶつかった生徒からかけられる罵倒も、教師からの注意もすべて聞き流し、俺は一心に人気のない場所を目指して走った。 「私は、優くんに何も返せていない。それだけが、私の後悔でした。ありがとうもごめんなさいも、言うことができずに、私は優くんと離れ離れになってしまいました。結局、再び優くんに出会えたのは、優君がちょうど、燃える木に押しつぶされようとしているときでした。なんて間が悪いのだろうと、私は自分の不運を呪いました……いや、呪ってはいけませんよね。私が優くんから受け取った大事な『運』なんですから」  こみあげる嗚咽を必死にこらえる。耐えられなかった分が、涙となってこぼれ落ちていく。 「私は、うれしかったんです。不謹慎かもしれませんが、優くんの役に立つことのできる機会に出会えたことが、私は本当にうれしかったんです。そして、私は、優くんに、私の『時間』をあげました。私が今後生きるはずだったほぼすべての時間を。これが、私の精一杯の恩返しです。……それから、ごめんなさい。優くんからもらったものを、私はこれだけしか返せませんでした。優くんの大切を受け取っておきながら、私には、優くんのように誰かを救うことはできませんでした。だから、これで最後にしました。優くんを救うことで、私は、ようやく私を赦すことができた気がします。…………ありがとう、ありがとう。私をあのとき救ってくれて、本当にありがとう。自己満足かもしれません。優くんに赦してもらえるとも思っていません。でもどうか、こんな私の人生を、認めてくれませんか…………………………ごめんなさい」  浮かんだのは、温かい風景だった。両親がいて、俺がいて、そしてある少女がいて、皆が楽しそうに笑う、そんな風景が。西日が射すまである少女と駆け回った、温かい記憶が。  少女と手をつないで帰った、薄暗い帰り道を思い出して、俺はついに抑えきれなくなった思いを吐き出した。
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