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「あ。」
合奏練習が終わり、楽器の片付け時に私の楽器ケースの隣に先輩が立って居た。携帯を触りながら壁にだるそうにもたれている。先輩の私服姿なんていつぶりに見ただろうか。卒業した三年生はもう制服ではなかった。先輩の白い長ズボンが異様に大人っぽくて、ドキドキとしてしまう。
「先輩、お疲れ様です。」
「お疲れ様。」
素っ気ない挨拶。目線は携帯にそそがれたままだし、本当に…。はぁ…。
「先輩、何処にご飯食べに行きたいですか?」
「何処でもいい。井上が決めていいよ。」
うっっわ、丸投げされた…。そう言われるとかなり困るなぁ。というか、何処でもいいっていう返事が一番困るって!
「はぁ…どういう系がいいですかね?」
「何でもいい。井上が決めて。」
こりゃダメだ、何聞いてもたぶん何でもいいで済まされる。諦めて私は無言で楽器を片付けた。それよりも私は、先輩の右手の紙袋の方が気になって仕方ない。
もしかしてあれですか?お返しだったり?
期待とはあっさりと裏切られるものである。
「あ、大野。はい。」
私には目もくれずに違うパートの私の同期を見かけてそれを手渡す。
「お前の兄貴にも渡しておいて。あと大野の分もあるから。」
「あ、はい。分かりました。」
大野と呼ばれた同期の女子は私も特別仲良くしている子であった。その子の兄が先輩と仲良いことはリサーチ済みである。
でもだからといって、だからといってさぁ…。私には無いわけぇ…?
流石にその日は家に帰ってから落ち込んでしまった。大野へは兄貴がいるから仕方ないとはいえ、私の目の前で渡さなくたっていいじゃない。じわりと涙が出てくるのが分かって、口を尖らせた。
「何で私先輩のこと好きなんだっけ。」
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