好きだけじゃ表せない

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次の日、先輩は約束の時間に遅れてやって来た。春らしい明るい色の花柄のシャツにふわっとしたスカートで身を包み、張り切って早めに来たというのに。何でこんな日にまで遅れてくるのか。理由を聞いて私はますます呆れてしまうのである。 「ごめん、財布落としたかもしれなくてお金だけ取りに戻ってた。」 「…大丈夫なんですか、それ?」 財布落としたのは流石に一大事である。 「大切なカードとか入ってません?」 「大丈夫…だったはず。まぁ帰りにまた探しながら帰るよ。」 適当にそう返事をすると、先輩は私を店に入るように促した。結局地元の近くの定食屋に行くことになったのである。男性ならラーメンとかの方が好きだろうとは思ったが、それだと全く話せずに終わるだろうと思ったからだ。だが、それが裏目に出ようとは。 まずい。非常にまずい。 私は普段先輩と雑談というものをしたことがなかったのである。正直何を話したらいいか分からないし、平常な姿を取り繕うので精一杯だった。どうしたものかと思案する私の姿をしばらく先輩は観察するように見つめて声をかけてくる。 「定演の準備、どう?」 「へ!?あぁ…そうですね。」 何故かとても事務的な話を切り出してしまい、私自身どうしたら良いのかわからないまま話を始めた。先輩は無自覚だろうが切り返し上手で、話がトントン拍子に進む。OB・OGの先輩方の話などは私の知らないことを沢山教えてくれた。 時間などあっという間に過ぎていた。ご飯が食べ終わり、促され外に出た私たちは暗い中で向かい合う。先輩は何を考えているのか正直分からない、これだけ隣にいても表情は正確には読めないのだ。後輩失格だろうか、いや好きな人失格かも。 「井上、はい。」 「え?」 突如差し出されたものを慌てて受け取り、私は目を見開いたまま固まった。 「これは…?」 「バレンタインのお返し。渡してなかったろ。」 いや、でもこれは…。
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