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ユキの姿をテレビで見た日には、決まって同じ夢を見た。
遠くに見える遊園地に行こうとする夢だ。
ある時は徒歩で、ある時は車で、ある時はバスで、と交通手段こそ違え、常に同じ道を行ったり来たりして、最終的には遊園地とは逆の方向へと進んで行ってしまうのだ。
その夢を見た朝は、これまた決まって頭が重い。
行きたくても行けなかった遊園地のことばかりが気がかりで、その日は仕事すらままならない状態になるのだった。
そんな重たい頭を抱えて仕事をすることが増えたある日、珍しく手紙が届いた。
差出人は、何とユキだった!
どうして住所を知ったか分からないが、そんなことどうでもよかった。
僕の胸は大きく高鳴った。
「先生、お元気ですか。私は元気です。
先生があの日私の歌声を録音してくださらなければ、今の私はいないと思います。感謝しております。
・・・と、同時に、少し先生を恨んでいます。
だって、あまりにもお仕事が忙しいのですもの(笑)
・・・なんて、幸せな悩みですよね。
それでは、また。 ユキ」
小さくて可愛い文字、今にも彼女の澄んだ声が聞こえてきそうだ。
これは!
この手紙は今の生徒たちに自慢できる。
何より、彼女と自分の関係を示す証拠になる。
そう思った僕は、早速手紙をかばんに入れ、意気揚々と学校に出かけた。
学校に行き、さっそく手紙の話をした。
すると、いつもは話を聞かない生徒たちが身を乗り出して来た。
もったいぶって、手紙を開いて見せてやると、生徒たちはひどく落胆して叫んだ。
「ふざけんなよ!白紙じゃねえかよ!!」
・・・そんなバカな!
僕が再び手紙を確認すると、今朝読んだはずのユキの文字が一つ残らず消えていた。
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