1話 魔女のアトリエ

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1話 魔女のアトリエ

 目を覚ますと、そこは知らない天井だった。 全身が鉛のように重く、頭の左端がじりじりと痛む。 硬いベッドに薄汚れた天井。埃被った部屋にはなんだかよく分からない器具が散乱している。 ここはきっと病院に違いないと思った時、得体の知れない恐怖感がぞっと押し寄せてきた。 僕は、また死に損なった...。 最後の晩餐と称して食べた身の丈に合わない高級料理も、家族と高校の連中に宛ててつらつらと書いたあの遺書も、何時間と思い悩んで身を投げ出したあの瞬間も、全ては徒労に終わってしまったのだ...。 この病院を出れば、どこにも居場所のない日常が始まる。 それを考えると怖くて苦しくて情けなくて、どうにかなってしまいそうだった。いっそのこと、頭のねじをかなぐり捨てて、早く楽になりたかった。  彼がベッドに腰かけて絶望の海に沈んでいると、重々しい音を立てて扉が開き、不思議な格好をした女性が部屋に入ってきた。 顔と体型は二十代くらいのルックスなのだが、身にまとった紫の不気味なローブと色素だけを抜き取られたように真っ白な長い髪が異質な雰囲気を醸し出していた。 「おはよう。気分はどうかね、私のホムンクルス1号くん。」 彼女は手元のバインダーに何やらメモしらながら彼の隣に腰かけた。かいだことの無い香水の甘ったるい匂いが鼻につく。 「あの、ここって病院ですよね?」 彼がそう言い終わる寸のところで、彼女は目を見開いて後ろにのけ反り、そして壁に頭をぶつけた。ごん、と鈍い音がする。 「痛い...って、君しゃべったか?!」 ぶつけたところが痛むのか、手でそこを抑えて彼女は彼に尋ねた。
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