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「君は今でもまだ、死にたいと思うかね。まあ死なれると私が困るんだが。」
彼女のその問いは、彼の答えを求めるというよりも、自分の答えを確認したいといった体であった。
彼は一つ一つ、言葉を選ぶようにして答えた。
「僕は、今は死にたいとはそんなに思いません。きっとレイさんとおんなじで、この知らない場所に来て、自分を苦しめてきたものがなくなったからだと、思います。正直、いまはもう元の生活には絶対戻りたくない。これが夢なら覚めないでほしいです。」
彼女は満足そうに頬を緩ませて微笑んだ。そしてワインを最後まで喉に流し込んで、小さく息をついた。
「なんか、しんみりしてしまったな。やはり昔話はほどほどにしないといけない。こうも白けるなんて。」
その言葉とは裏腹に、彼女の顔はちょっとした幸福感みたいなもので溢れていた。
「もういい。今日は寝よう。買い物は明日だ。」
そう言って彼女は皿とカップを抱えて台所へと向かった。いつの間にか癖がついたのか、彼も彼女について、洗うのを手伝った。
「いいんだよ。君は寝てな。寝室は隣の部屋だ。ベッドは私が使うからソファを使うといい。」
そういう彼女を横目に、彼はそこを動かなかった。
「なにかね、それとも君は、お姉さんと一緒に寝たいのか?」
「いえ、その、僕がしたいから、いいんですよ。レイさんに話聞いてもらって、なんだかすっごく楽になりました。ありがとうございました。」
彼女は優しいため息をついて答えた。
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