3話 魔女の世間話

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3話 魔女の世間話

 彼はデパートに連れてこられた子供みたいにあたりをきょろきょろ見回しながら、彼女の隣を歩いていた。 いつか教科書でみたアッピア街道を彷彿とさせる、足元に敷き詰められた石造りの道や、その端に軒を連ねるレンガや木や石でできた中世風の建物は、日本を出たことの無い彼にはどれもが新鮮で、彼は一人でわくわくしていた。 「おい式、もう少し静かにできんのか。もう落ち着いてきても良い年頃だろう、君は。」 彼女は少し呆れた顔をして彼を一瞥した。それでも彼はたぎる興奮を抑えられなかった。 「ごめんなさい...。僕、外国を見るのが初めてで、自分の知らない日常がここで流れてると考えると、なんだか興奮しちゃって。」 街は朝から賑わっていて、あちこちで人が行きかい、話し声や歓声が聞こえてきた。 彼女はめあての雑貨店を見つけると、扉を押して入っていった。彼も彼女の背中についていく。 「おはよう、ナターシャ。今日はまた随分と騒がしいな。」 彼女はカウンターで作業をしている金髪の若い女性に声をかけた。 「あら、レイさん。おはようございます。」 その女性は彼女の隣に佇む彼を見つけると黄色い声を上げた。 「ねえ、レイさん、その方誰?ボーイフレンド?」 「馬鹿言え。この子は私の従弟だ。シケィンジーガー。シキとでも呼んでやれ。」
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