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彼女はその本を机の上に無造作に投げ捨てると、部屋を出て台所へと向かった。
彼もおぼつかない足取りで彼女に続いた。
「さっきの本、なんなの。」
彼は彼女の小さな背中に問うた。彼女は前を向いたまま答える。
「魔女に与える鉄槌。随分と古い本だ。酷く痛んでてろくに読めもしない。」
彼女は背中に憂いを漂わせて言葉を紡ぐ。
「なに、聖遺書といっても果てしなく古いだけでたいしたことは書いてない。
魔女裁判や火炙りの刑、そういったものの手引書みたいなものだ。
作者はとんでもなく悪趣味な人間だったんどろうな。」
「聖遺書ってなに?」
彼女は食卓に講釈と皿を並べながら席に着く。
「聖遺書というのは、そうだな、明確な定義はないんだが、誰が書いたのかも分からないほど古い書物の総称だ。未だに解読できていない書物も多くある。そういう本は、原本のまま刷られて出版される。まあ、そんなの買うもの好きなんぞ、そうそうおらんがね。」
彼も席について彼女の話に耳を傾ける。
「そうだな、隣国のテーゼ海から出土したテスタメントなんかが有名だ。
私たちの世界のはじまりや神について叙事詩的に記してある。
今度貸してやるから読んでみるといい。好きなんだろう?本読むの。」
彼は無言でこくりと頷いた。
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