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今日の朝食も昨日と大して変わらず、いつものかたいパンと水、それぎりだった。
そんな味気ない食事に、彼は一種の愛着を覚えていた。
もしかすると、誰かとする食事、というのが彼にとって重要なのかもしれない。
家族と一緒に食事をとったのなんて、何年も前のお正月で最後であった。
「そうだ式、今度は君の物語が聞きたい。」
彼女はいつものように、パンを口にほおばって、何の脈絡もなく彼に話しかける。
「僕の物語?」
彼もパンを必死に千切りながら答える。
「ああ。宗像式の物語だ。なに、私だけ思い出話ばかりしていて、なんだか不公平じゃないか。
たまには君の話が聞きたいと思ってな。」
彼は千切ったパンを口に運びながら言う。
「別に僕にはレイさんみたいな冒険譚なんてないですよ。」
彼は居心地悪そうに座りなおした。
向こうの世界のことを考えるのは、正直陰鬱であった。
「まあそういうな。昨日の夜、あんな可愛い顔見せといて、今更恥ずかしがることなんざそうそう無いだろう。」
彼は朝から努めて忘れようとしていたことをつつかれて、顔が真っ赤になった。
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