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「じゃあ、あなたが治療してくれたんですか?」
「ん?なんのことかな?」
「僕は大怪我してたはずなんです。失血して意識を失うくらいの。」
彼女は本当に何もわからないといった様子で彼の話を聞いていた。
「そんなはずはないよ。君は昨日、ここで生まれた。」
「でも僕は自分が死にかけたのを覚えてる。」
彼は、それだけは確かな口調で答えた。彼女はその小作りなあごに指を当てて少し考える様子を見せる。
「じゃあ君は、そういう記憶を持って昨日生まれた。」
「でも僕は、今日まで生きてきた16年をはっきり覚えています。」
彼女はまた考える姿勢に入ったが、しばらくすると諦めて、優しい笑みを浮かべて彼に向かった。
「まあ、いいや。そういうことにしておこう。」
しかし、彼女の表情からは、腑に落ちない様子が見て取れた。
「じゃあ、あなたは何者なの?」
彼女にそう言われて、彼は答えに窮した。未だ何者でもない彼は、その質問に対する明確な答えを持っていなかった。
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