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「早朝に学校に忍び込んで、屋上から飛び降りたんです。」
彼は二日前のそのことを思い出していた。彼のありふれた、それでいて気色の悪い毎日は考えるだけで吐き気を催した。
「まだ若いのに、愚かしい。」
「別に僕も死にたいわけではなかったんですよ。ただ、その、陰鬱すぎる毎日から逃げ出したくて、でもそれが許されなくて。それで、もう明日が来ないのならと思って自殺したんです。両親は離婚騒ぎで、僕の押し付け合い。学校でも殴られないように道化をするだけ。ぼくは、この日常が嫌で嫌でしょうがなかった。」
彼女はカップを傾けて、その中に注がれた赤い液体を眺めながら言った。
「まあ、かくいう私も自ら命を絶とうとしたことがある。いまじゃとても考えられないがね。」
彼女は懐かしいアルバムを1ページずつ、丁寧に開いて見せるように言葉を紡いだ。
「私は王族の生まれだったんだが、何が祟ったのか、母が黒魔術に傾倒してしまってね。それで私も巻き込まれたわけだが、朝から晩まで王室中が大騒ぎだった。外に漏れでもしたら大変だからな。一国の妃が魔女だっただなんて。」
彼女は時折ワインをあおりながら続ける。
「結局母と私と、それから跡継ぎの第一皇子以外の兄弟は皆、秘密裏に処刑されることとなった。その時の私は、とてもじゃないが耐えられなかった。考えてみたまえ。ほんの少し前まで自分を寵愛してくださった父親や兄に罵倒を浴びせられ、死を望まれ、母を殺され...。それで私は自ら死のうとした。警護の兵に見つかって失敗したがね。」
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