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サクサクと雪が積もった道を歩いて、彼女はおいしそうにホットドックを食べていた。
「なんで、そんなに毎回毎回おいしそうに食べるんだよ。」
と何となく聞いてしまった。少女はパタッと歩くのを止めて、こちらを振り返る。
「だって、おいしいじゃない。」
と困ったように答えた。僕は、その答えと彼女の表情から全然納得がいかなかった。その様子に彼女も察したのだろう。むしゃむしゃと食べながら、ゆっくりと話してきた。
「私ね、食べ物の味を覚えられないの。」
僕は、思考が追い付かず、何を話しているんだと考えながら、少女の話の続きを聞いた。
「みんな、好きな食べ物はハンバーグっていうじゃない。でもね、私、食べたその瞬間はおいしいって感じても、次に食べるときにハンバーグって、どんな味だったかなって思っちゃうの。よく、お母さんの料理が好きっていう子がいるけど、お母さんの料理の味が思い出せないの。」
ホットドックで手を暖めながら、世間話をするように話している。だが、僕には衝撃的だった。数年来の幼馴染だ。それなのにどうして、こんなことも知らなかったんだろう。
「でもね、」
何となく、先ほどの世間話のような声のトーンではない。
「君と一緒に家に帰る途中で、食べ歩きしながら話して帰るの楽しいなって思ったの。味が思い出せなくても、楽しいなって覚えているから。それでいいの!」
と一気に答えた。彼女は言ったきり、下にうつむいた。
なんだよ、それ。まるで告白みたいじゃないか。
下をうつむいている彼女の顔が見たくて、その場にしゃがみこんで顔を覗き込んだ。顔が真っ赤で僕と顔を合わせると、こっち見るなよと言いたげにそっぽを向く。
なんだかひどく可愛く見えた。
「ホットドック少しくれるんだろ。」
と僕が問いかけた。困ったように顔をそむけながら、ホットドックを持った手が僕のほうに伸びる。僕はホットドックにぱくっと食いついた。
「なんで、自分で持たないの。」
と顔を真っ赤にして問い詰める。僕は、あ、ホットドックうまいなと思いながら、
「一緒に楽しく食べたいんだろ、ホットドックおいしいな。」
と普通の声のトーンで答えた。彼女は、
「ばかっ」
とぽそっとつぶやきながら、ホットドックを齧った。
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