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体育館までは割と長い道のりで、普段の学校生活でもそこそこの数の生徒が見られる。さらに、この学園祭準備の大詰めといった時間帯は普段の二倍近くの数になる。まるで迷子続出当然のお祭りのようだ。
こんなところで人を探すのはかなり難しい。しかし、そんな中でも、行き交うステューデンツをかき分け、こちらへ向かう少女が一人いた。
「イツキ君!」
「あれは・・・ヒナタ?」
やってきた少女はイツキと同じクラスの望月陽向。
焦げ茶色の瞳と肩下まで伸ばした髪を持ち、若干目じりが下がっていて、優しそうな顔立ちを持ちながらもどこか子供っぽい雰囲気を出している少女だ。
イツキとは小学生の時に初めて出会い、それ以来、中学校、高校と一緒で、クラスもずっと一緒だった。イツキにとって数少ない女友達である。
「そんな焦ってどしたの?」
もう秋なのに無駄に汗をかいて、息を切らして、顔を赤くして、そんなヒナタに、イツキが疑問符を浮かばせる。
「あの、イツキ君。ちょっといいかな」
彼女は上目遣いで申し訳なさそうに聞く。イツキは一般女子のこういう仕草は嫌いなのだが、彼女は普段から正直で下心などまったく持っていないため、面倒くさい女だ、とか感じさせない。
「いいけど、どうした?」
「こっち来て」
そう言ってイツキの腕を掴み、人影のないところへ連れて行こうとする。
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